公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233FF000022 【演題名】プロテアーゼによる呼吸器ウイルス活性化機構の解析 【研究者氏名】竹田 誠 【所属機関】東京大学大学院医学系研究科 これまでに申請者らは、II型膜貫通型セリンプロテアーゼTMPRSS2が、呼吸器ウイルスの活性化において最も重要な役割を担うプロテアーゼであることを示してきた。特に、TMPRSS2遺伝子をノックアウトしたマウスを用いることで、A型インフルエンザウイルスおよび重症コロナウイルス(SARS-CoV-1、MERS-CoV、SARS-CoV-2)による重篤な気道感染症の発症に、TMPRSS2が不可欠であることを明らかにしてきた。 しかしながら、これらの実験には、モデル動物としてマウスを使用している点に弱点がある。すなわち、マウスとヒトの間には生理学的な違いが存在するため、TMPRSS2が本来の宿主動物における呼吸器ウイルス感染症や、ヒトにおける気道感染症においても同様に重要であるかどうかは明確ではなかった。 この課題を解決するために、申請者らは次の2つの実験系を構築した。第一に、マウスを自然宿主とする呼吸器ウイルスを用い、TMPRSS2ノックアウトマウスに感染させる実験、第二に、TMPRSS2をノックアウトしたヒト由来の呼吸器オルガノイドを利用する実験である。 第一の実験では、自然宿主がマウスであるパラミクソウイルス科のマウスパラインフルエンザウイルス1型(センダイウイルス)およびニューモウイルス科のマウス肺炎ウイルスの2種類を用いた。その結果、自然宿主モデルにおいても、ウイルス性肺炎の発症にTMPRSS2が非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった。 第二の実験では、SARS-CoV-2(武漢株および各種変異株)感染時におけるTMPRSS2ノックアウトの影響を解析した。その結果、ヒト呼吸器オルガノイドでは、TMPRSS2ノックアウトマウスで観察されたような劇的な変化は見られなかった。すなわち、TMPRSS2を欠損したオルガノイドにおいても、SARS-CoV-2の効率的な感染が認められた。しかしながら、セリンプロテアーゼ阻害剤およびカテプシン阻害剤を用いた詳細な解析の結果、ヒト呼吸器オルガノイドにおける感染でも、TMPRSS2が効率的なウイルス感染に貢献していることが示された。さらに、いずれのSARS-CoV-2株においても、ヒト呼吸器オルガノイドへの感染ではカテプシンを介した感染経路も効率的に利用されていることが明らかとなった。 ― 7 ―
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