公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS005544 【演題名】新規ナノボディ中和抗体薬の開発を目的とした底生ザメ免疫応答に関する基礎研究 【研究者氏名】谷村 進 【所属機関】長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命薬科学 軟骨魚類であるサメやエイには重鎖のみからなる重鎖抗体が存在し、その可変領域(VNAR)は単量体で抗原を認識することができる。VNARは分子量が約15 kDaと小さいため比較的容易に組換えタンパク質を作製することが可能である。加えて、安定性も高いことから、抗体薬への応用が注目されている。我々はVNARに由来する抗体薬(サメナノボディ)の開発を目指し、これまでに本学水産学部と連携して、長崎近海で捕獲したネコザメとトラザメを陸上で飼育するための設備を整えた。 それぞれのサメ重鎖抗体の遺伝子配列を解析し、その情報をもとに重鎖抗体の定常領域に対するモノクローナル抗体を作製して、重鎖抗体の検出系を構築した。これを用いて、ネコザメとトラザメの定常状態における重鎖抗体の発現を確認したところ、ネコザメでは重鎖抗体の発現を確認することができたが、トラザメではほとんど検出できなかった(Uemura, R. et al. (2025). Marine drugs, 23(1), 28.)。この結果は、サメの種によって定常状態での重鎖抗体の発現が異なることを示唆しており、サメナノボディの開発に当たっては、使用するサメの種が重要な鍵を握っている可能性が示された。抗原に特異的なサメナノボディを得るためには、抗原の投与によって特異的な重鎖抗体の発現を誘導することが重要である。そこで、定常状態において重鎖抗体の発現が認められたネコザメを用いて、抗原投与の条件検討を行った。その結果、抗原投与に応答して特異的な重鎖抗体の発現を誘導できることが分かった。また、その発現誘導には抗原を2週間間隔で6回以上投与するのが望ましいことが明らかとなった。その一方で、全ての個体で抗原特異的な重鎖抗体が誘導されるわけではく、一部の個体は抗原投与後に死亡するなど、個体によって応答が大きく異なることが分かった。 野生のサメでは、捕獲までの生育環境が個体ごとに異なる。また、正確な年齢を生きたままの状態で把握することは困難である。よって、様々な背景を有する野生のサメを用いる場合には、重鎖抗体の応答に個体差が生じやすくなると考えられる。今後は、ネコザメとトラザメの陸上養殖システムを確立し、年齢や性別などの個体情報を管理したサメを用いて重鎖抗体の誘導に最も適した抗原投与・サメ個体の条件を策定する。これにより、効率的かつ安定的なサメナノボディ開発の環境整備を進める。 ― 54 ―
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