公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS002288 【演題名】ヒトサポウイルス受容体に着目した創薬戦略・動物モデル確立のための萌芽的研究 【研究者氏名】岡 智一郎 【所属機関】国立感染症研究所ウイルス第二部 (現 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部) サポウイルス (HuSaV)はノロウイルスと同様、年齢を問わず下痢・嘔吐を主訴と する急性胃腸炎を引き起こし、大規模な集団感染事例、食中毒も報告されている。2022年の感染性胃腸炎の小児科定点調査ではHuSaVが40%とノロウイルスに匹敵するレベルで検出された。治療薬やワクチンはなく感染制御が困難なウイルスである。 我々は2020年に初めてとなるHuSaVの増殖系の構築に成功した(Takagi, Oka et al., PNAS. 2020)。この新規かつ独自の増殖系は、生理的感染部位と考えられるヒト十二指腸由来のHuTu80細胞株を用い、ヒト腸管にも存在する抱合型胆汁酸を培地に添加することでインプットウイルス量から100万倍以上の増殖が可能で、培養上清中に患者便と同レベル (〜1✕1011 copies/mL)のウイルスが得られる。そのため、HuSaV感染・増殖部位との生理的整合性が高く、その感染・増殖メカニズムの解明に適していると考えた。なお、我々が使用している細胞は継代を繰り返すことで得たHuSaVが効率的に増殖する細胞集団で、培養継代数が少ないHuTu80細胞株のHuSaVの増殖レベルは低い。この独自のHuSaV高感受性HuTu80細胞により、これまでに18のうち15遺伝子型株の増殖・分離に成功している (Oka et al., J.Virol. 2024)。さらに、ゲノムワイドランダムノックアウトスクリーニング、候補因子のノックアウト、強制発現によってHuSaVの増殖に必須なProtein-Xの 特定にも成功した(図)。 検討したHuSaV 15遺伝子型株の感染・増殖に共通して必須なProtein-Xの同定は、この制御困難なウイルスの感染・増殖メカニズムの詳細な解明や創薬戦略、動物モデルの確立、さらにはワクチンの開発等、HuSaVの制御方法開発のための基盤となる。 ― 52 ―
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