公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS002244 【演題名】マダニのウイルス感染モデルの作製とウイルス伝播機構の解明 【研究者氏名】田仲哲也 【所属機関】東北大学 大学院農学研究科 生物生産科学専攻 動物微生物学分野 【【背背景景】】マダニは人獣共通感染症を含む様々な疾病を媒介する吸血性節足動物であり、生存のために人や動物から吸血を必要とする。吸血される大量の血液には鉄が含まれているためマダニ体内に大量の鉄が入り込む。鉄を触媒としたフェントン反応によって過酸化水素が反応し、活性酸素種(ROS)が発生することで、酸化ストレスが生じる。そのため、マダニ体内には、酸化ストレスを消去するグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、ペルオキシレドキシン(Prx)、フェリチン(FER)などの抗酸化分子が存在する。一方、フラビウイルスは、ダニ媒介性脳炎などを引き起こすマダニ媒介性病原体であり、ウイルス感染時に、酸化ストレスが生じることが予想される。そこで、我々は、ダニ媒介性脳炎ウイルスのモデルとなっているランガットウイルス(LGTV)を用いて、マダニやマダニ細胞におけるLGTV感染時における抗酸化分子の発現動態を調べた。 【【材材料料とと方方法法】】未吸血のフタトゲチマダニ(雌成ダニ)にLGTVを肛門接種して感染させ、1日ごとにマダニを回収し、それぞれをDay 0、Day 1、Day 2、Day 3、Day 4とした。これらをホモジナイズしたサンプルからトータルRNAを抽出し、cDNAを合成した。続いて、リアルタイムPCRを用いて、抗酸化分子(GST、Prx、FER)遺伝子の発現量を定量した。また、GSTノックダウンマダニ(ISE6)細胞を用いて、LGTVを感染させ、細胞増殖率を算出した。さらに、LGTV感染後の培養上清を回収し、培養上清中に含まれるLGTVのウイルス力価を測定することでGSTがLGTVの増殖に及ぼす影響について調べた。 【【結結果果】】リアルタイムPCRの結果、GST遺伝子ならびにPrx遺伝子の発現量は、Day 1からDay 3にかけて増加しDay 4で減少した。一方、細胞内型FER1遺伝子の発現量は、Day 0からDay 2にかけて増加しDay 3で減少したが、分泌型FER2遺伝子の発現量は、Day 0からDay 4まで有意な差が認められなかった。 LGTVに感染させたGST遺伝子ノックダウンISE6細胞は、EGFP遺伝子ノックダウンコントールISE6細胞と比較して細胞増殖率の有意な低下が認められた。また、その培養上清中に含まれるLGTVのウイルス力価を比較したところ、有意なウイルス力価の低下が認められた。 【【考考察察】】以上の結果より、マダニ体内では、LGTV感染時に酸化ストレスが生じたため、Day 1からDay 3にかけてGSTとPrx遺伝子の発現量が増加したことが考えられた。一方、FER遺伝子は、鉄が関与する酸化ストレスに対して作用する可能性があるので、GSTとPrx遺伝子の発現とは異なる動態を示したことが考えられた。しかし、各抗酸化分子はLGTV感染初期に一過性の発現上昇を示し、その後低下したことから、LGTVの細胞内環境への適応による酸化ストレスの低下が考えられた。 GST遺伝子ノックダウンにより、ISE6細胞はウイルス感染による酸化ストレスを処理することができなくなることで細胞の増殖率が低下し、LGTVの増殖が抑制されたことが示唆された。 【【結結論論】】本研究は、マダニのウイルス感染における抗酸化分子の発現動態を調べることで、ウイルス感染によって生じる酸化ストレスの処理に抗酸化分子が関与している可能性を明らかにした。 ― 51 ―
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