シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
52/62

公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS002233 【演題名】肺炎桿菌の菌体外膜微粒⼦を活⽤した遠隔臓器へのsmall RNA送達による疾患発症機序の解明とその予防技術の創出 【研究者氏名】津川 仁 【所属機関】東海大学医学部 Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)はヒト腸管内の共生細菌であるにも関わらず高齢者には、肺炎、肝膿瘍、尿路感染症を引き起こす。しかしこれまで、「消化管内共生状態にあった本菌が、なぜ高齢者には肺炎や肝膿瘍を引き起こし始めるのか?」という疑問は明らかにできていなかった。本研究で代表者はマウスin vivoイメージング解析により肺炎桿菌が産生・放出する細菌性微粒子(KpEVs)が消化管管腔内から血中を介して、肝臓、肺、背骨に特異的な集積性を示すことを見出した。そこで、これら集積臓器でのKpEVsの生物活性と本菌感染症に対するKpEVsの役割の解明を目的に、KpEVsのマクロファージに対する生物活性をマウス骨髄由来初代培養マクロファージ(BMDMs)を用いて解析した。KpEVsはマクロファージのM2-phenotypeマーカーCD206陽性率を増加させる一方、FluoSphereビーズの貪食性を有意に亢進させた。また、肺炎桿菌感染下でKpEVsはIL-1β 産生は亢進させるが、カスパーゼ 1 依存的なpyroptosisは顕著に抑制し、本菌のマクロファージ内生存率を亢進し、肝臓への細菌移行を促進させた。我々はKpEVs内に細菌性tsRNA断片が内包されていることを明らかにしており、本研究ではKpEVsのマクロファージに対する生物活性がこのtsRNAに依存するかを検証した。結果、KpEVs内包tsRNAは肺炎桿菌感染時の一酸化窒素(NO)産生を顕著に抑制し、肺炎桿菌のマクロファージ内生存率を顕著に亢進させた。一方、KpEVs処理によるマクロファージのM2-phenotypeへの誘導や貪食活性の亢進、インフラマソーム活性化の攪乱の誘導は認められず、これらの生物活性はtsRNA非依存的で異なる内包性分子によるものと考えられた。さらに、背骨に集積するKpEVsは破骨細胞及び骨芽細胞に対しても特徴的な生物活性を発揮し、脊椎での骨代謝バランスを崩壊させることが明らかになった。現在、KpEVsが脊椎骨代謝疾患の発症要因であるかを臨床試験により解析している。本研究により得られた研究成果を基盤に、引き続き細菌性微粒子の遠隔臓器での疾患発症への関与機序の解明とその予防・治療法開発に資する研究を継続していく予定である。 ― 50 ―

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る