公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS002222 【演題名】重症感染症を抑制する新しい⾎管機能の解明 【研究者氏名】岡⽥ 欣晃 【所属機関】大阪大学大学院薬学研究科 我々は新型コロナウイルス感染症をモデルに、重症感染症における血管の役割を研究してきた。これまでに気道から侵入した新型コロナウイルスが肺血管内皮細胞間の接着を破綻させ、細胞間隙を形成することで、ウイルスの血管内侵入や肺水腫を誘導することを見出した(Sci Adv. 2022)。また、新型コロナウイルス誘導性の血管バリア破綻を抑制するために、内皮細胞間の接着を安定化するタンパク質Roundabout4(Robo4)に着目した。Robo4の発現を促進する低分子薬を同定し、この薬が新型コロナウイルス誘導性の血管バリア破綻とマウスの病態を抑制することを明らかにした(PNAS. 2023)。これらの検討から、血管バリアの破綻が重症感染症の病態に寄与すること、血管のバリア機能を強める戦略で病態を抑制できることが示された。また、この研究の過程で見られた、Robo4の病態抑制効果は強かったため、Robo4が血管バリア強化以外のメカニズムを介して、病態を抑制する可能性が示された。そこで今回は、Robo4が重症感染症病態を抑制する新たなメカニズムを探索した。 重症感染症病態におけるRobo4の新たな機能を探索するために、炎症下の血管内皮細胞においてRobo4が発現制御する遺伝子群をRNA-seqにより解析した。その結果、Robo4が炎症増悪に寄与するCOX-2発現を抑制する可能性が示された。まず、Robo4がCOX-2遺伝子の発現を抑制することを定量的PCRにより確認した。Robo4がCOX-2発現を抑制するメカニズムの解析から、Robo4が低分子量Gタンパク質Rac1の持続的活性化を抑制し、COX-2発現を抑制することを見出した。さらに、Robo4の相互作用因子の解析から、Robo4がRac1の活性を維持するIQGAP1およびE3ユビキチンリガーゼであるTRAF7と相互作用することが示された。この複合体の中で、Robo4はTRAF7を介してIQGAP1をユビキチン化し、IQGAP1からRac1を解離させ不活性化を誘導することを明らかにした。また、活性化Rac1はJNK-AP1シグナルを介してCOX-2遺伝子の発現を促進すること、Robo4がこのシグナル経路を抑制することを明らかにした。 以上の結果から、Robo4がTRAF7とIQGAP1との相互作用を介してRac1の持続的活性化を抑制することで、内皮細胞のCOX-2発現を抑制し、重症感染症における炎症病態を緩和することが示された(Commun Biol. 2024)。 ― 49 ―
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