シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233SS001144 【演題名】難治性肺非結核性抗酸菌症の新規薬物治療法開発 【研究者氏名】西村 知泰 【所属機関】慶應義塾大学保健管理センター 肺非結核性抗酸菌(NTM)症は、世界、日本において患者数が急増している、慢性呼吸器感染症である。NTMに対する有効な抗菌薬は限定されており、日本や欧米の治療ガイドラインでは長期間の抗菌薬多剤併用療法を推奨しているが、排菌陰性化を確認し治療を終了した後でも約50%の症例で再発・再燃を起こすことが報告されている。また、抗菌薬の副作用や起因菌の薬剤耐性化により標準治療が行えず、難治化する症例もしばしば経験する。肺NTM症、特に難治例に対する新規薬物治療法開発は喫緊の課題である。 肺NTM症の中でも肺Mycobacterium abscessus species (MABS)症は特に難治性とされている。MABSはβ-lactamaseを産生し、β-lactam系抗菌薬の活性部位を分解、不活化することが知られている。しかし、我々は、MABSに対する、diazabicyclooctane (DBO)系β-lactamase阻害薬併用下でのβ-lactam系抗菌薬の有効性を確認している。また、異なるβ-lactam系抗菌薬をMABSに併用投与すると、それぞれ異なるpenicillin結合タンパクに結合し、細胞壁合成を阻害することで抗菌作用を示すことが報告されている。そこで、我々は、MABSに対する、DBO系β-lactamase阻害薬とβ-lactam系抗菌薬2剤併用投与の有効性を検討した。 DBO系β-lactamase阻害薬のnacubactam存在下で、MABS基準株に対する、β-lactam系抗菌薬2剤の組み合わせの薬剤感受性試験を実施した。薬剤感受性試験で得られた最小発育阻止濃度(MIC)を用いて、fractional inhibitory concentration (FIC) indexを算出し、相乗効果、相加効果を判定した。83の組み合わせで相乗効果、137の組み合わせで相加効果を示した。更に、MABSの他の2種類の基準株と臨床分離株20株を用いて評価し、FIC indexが低く、MICも低い、β-lactam系抗菌薬の組み合わせ4種類(imipenemとcefazolin、cefotiam、cefoxitin、cefuroxime)を発見した。一方、MABSの亜種間やコロニー形態の違いによる相乗効果の差は認められなかった。 更に、MABSを感染させたヒト末梢血単核球由来マクロファージを使用し、その有効性を評価した。imipenemおよびnacubactamにcefazolinを加えると、濃度依存的に培養上清中の細菌数、細胞内菌数共に減少した。同様の減少傾向が他の3種類のβ-lactam系抗菌薬でも確認できた。 以上の研究結果より、肺MABS症に対する、DBO系β-lactamase阻害薬とβ-lactam系抗菌薬2剤の併用投与の有効性が示唆された。今後、臨床応用に向けた動物実験、臨床研究の実施が期待される。 ― 48 ―

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