シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN110044 【演題名】腸管出血性大腸菌を標的とした新規治療法の開発 【研究者氏名】芦田 浩 【所属機関】東京科学大学大学院医歯学総合研究科細菌感染制御学分野 下痢原性大腸菌感染症は、開発途上国を中心に年間数千万人が罹患し、菌の毒素やIII型分泌装置の働きにより重度の下痢を引き起こす。特に、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は出血性下痢に加え、感染者の10%程度は重症化し、溶血性尿毒症症候群(HUS)と呼ばれる致死性の急性腎不全や脳症などの合併症を発症する重篤な疾患である。しかし、抗生剤治療は毒素の産生を増加させ、HUS発症リスクを高める危険性があることから禁忌とされており、またEHEC感染症に対する有効なワクチンは存在しない。そのため、治療は対症療法が原則であり、重症化を予防・治療する方法は確立されていない。このような現況下では、EHEC感染症に対するワクチンおよび治療薬開発が急務とされている。 興味深いことに、EHECをはじめとする多くの腸管病原菌はヒトに特化した病原菌である。ヒトには100程度の少量の菌の摂取で感染するが、マウスには1010の菌数を経口投与しても腸管感染は成立しない。一方、腸管には約1,000種類、100兆個もの腸内細菌(常在菌)が生息しており、代謝産物産生や宿主免疫機能の活性化等により、感染防御に働く。この腸内細菌叢の恒常性破綻が生じると、感染症の発症、アレルギー、自己免疫疾患、など様々な疾患の原因となる。事実、我々は、特定の抗生剤処理で腸内細菌叢を変動させたマウスにEHECを経口投与すると、体重減少、毛羽立ち、痙攣、下痢様の軟便、腸管炎症、といった感染兆候とともに、感染マウスの致死性が認められた。この結果は、マウス腸内細菌叢を変動させることで、EHECはマウス腸管感染が可能となることを示している。すなわち、EHECの種特異性は、「種による腸内細菌叢の違い」が原因であり、マウス腸管内に特異的もしくは多量に存在する腸内細菌もしくは代謝産物がEHECのマウス感染を妨げている「マウス感染抵抗性因子」であることを示唆している。同時に、マウス腸内細菌叢とEHECの相互作用解析により、マウス感染抵抗性因子を同定できれば、ヒトのEHEC感染症に対する新たな感染予防・治療法の開発へと発展する可能性を有している。 本研究では、特定のマウス腸内細菌代謝産物がEHECに対するマウス感染抵抗性因子として機能することを見出し、その感染防御における機能を分子レベルで解明することで、ヒトでの重症化予防・治療薬開発の基盤形成を試みた。 ― 43 ―

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