シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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②③① 公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 尿路細菌叢および【【助助成成番番号号】】22002233NN110011 【演題名】糖尿病性腎症患者の尿路感染症をどう予防するか 【研究者氏名】*吉藤 歩、柴田 納央子 【所属機関】慶應義塾大学医学部感染症学 【背景と目的】 糖尿病性腎症患者における尿路感染症(Urinary Tract Infection: UTI)は、罹患率および重症化率が高く、さらに薬剤耐性菌が関与することも多いため、臨床的に大きな課題となっている。従来は、糖尿病に伴う免疫機能の低下(好中球機能障害、T細胞活性の低下など)が主な原因と考えられてきたが、近年では尿路環境や局所の感染防御因子の変化も重要な役割を果たすことが示唆されている。特に、これまで無菌と考えられてきた尿中にも細菌叢が存在し、その多様性の変化が疾患感受性や感染制御に影響を与える可能性が注目されている。また、細菌が分泌する膜小胞(Bacterial Membrane Vesicle: BMV)は、病原因子や薬剤耐性遺伝子を運搬し、宿主の免疫応答や炎症反応に関与することが報告されている。本研究では、糖尿病性腎症患者の尿路環境における細菌叢およびBMVの変化に着目し、これらがUTIの発症に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】 健常者および糖尿病性腎症患者から採取した尿検体を用いて、BMVの分離・同定、蛍光in situハイブリダイゼーション(Fluorescence in situ Hybridization: FISH)およびナノフローサイトメトリー(Nano Flow Cytometry: アンプリコンシークエンスおよびメタゲノムNanoFCM)によるBMVの可視化、解析による細菌叢の多様性と遺伝子構成の解析を実施し、得られた遺伝子情報を基に薬剤耐性遺伝子の存在をデータベースと照合して評価した。 【結果】 健常者の尿からも細菌叢およびBMVが検出され、Lactobacillus属やStreptococcus属など、既知の常在菌が確認された。また、FISHおよびNanoFCM解析により、尿中に存在する細菌由来のBMVを世界に先駆けて確認することに成功した。さらに、メタゲノム解析により、糖尿病性腎症患者群では尿路細菌叢のα-多様性が有意に低下していることが判明し、加えて、尿中の細菌叢およびBMV画分から薬剤耐性関連遺伝子が検出された。 【考察と結論】 尿路細菌叢の多様性低下は、UTI発症因子の一つとされており、本研究の結果は、糖尿病性腎症患者においてUTIの罹患率および重症化率が高い背景に、尿路細菌叢の多様性低下が関与している可能性を示唆している。また、薬剤耐性関連遺伝子を内包したBMVを、実際の臨床検体から検出したことは、UTIにおける薬剤耐性菌出現に対してBMVが関与する可能性を提起するものである。今後は、抗菌性タンパク質の定量的・機能的解析や、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いた尿中代謝物の網羅的解析を進めることで、尿路環境における感染防御機構の全体像を明らかにするとともに、BMVを標的とした新たな感染制御・予防戦略の構築を目指す。 〜尿路環境から感染予防を考える〜 ― 42 ―

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