シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN009977 【演題名】宿主小分子RNA経路によるマダニ媒介性ウイルスRNA認識機構の解明 【研究者氏名】椎森 仁美 【所属機関】奈良先端科学技術大学院大学 感染症の多くは野生動物に由来する人獣共通感染症であり、人獣共通感染症の多くは蚊やマダニといった節足動物によって媒介される。マダニ媒介性ウイルス感染症は、マダニ媒介性脳炎ウイルス (TBEV) をはじめとしたウイルスによって引き起こされ、重篤な症状を起こし高い致死率を示す。ウイルス媒介節足動物であるマダニにおいて、小分子RNA経路が主要な抗ウイルス機構として機能する。マダニは、脊椎動物や昆虫等では進化の過程で失われているRNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRP) を有し、昆虫である蚊とは明確に異なる小分子RNA経路を持つが、その分子機構やウイルス制御能については研究が進んでいない。そこで、本研究では、マダニ小分子RNA経路によって、TBEVがどのように認識、制御されているのか明らかにすることを目指し解析を行った。 Ixodes Scapularis胚由来培養細胞ISE6細胞において、TBEVとそのモデルウイルスであるランガットウイルス (LGTV) をISE6細胞に感染させ、小分子RNAの発現状態を網羅的に解析した。TBEVとLGTVはRNAレベルで80%, アミノ酸レベルで90%以上が保存されている。しかし、TBEV感染細胞ではLGTVに比べ1/40量のウイルス由来小分子RNA (vsiRNA)が産生されていた。この差を生み出すウイルス因子を明らかにするため、構造タンパク質を欠失したウイルスレプリコンのISE6細胞への導入またはTBEV/LGTVレプリコンとTBEV構造タンパク質を用いたウイルス様粒子 (VLPs)のISE6への感染を行い、小分子RNAの産生状態を解析した。TBEVのレプリコンとVLPsを比較すると、vsiRNA産生量はウイルスRNAの発現量に依存していた一方で、その分布パターンは異なり、レプリコンではRNAの末端から多量のvsiRNAが産生されるのに対しVLPsではゲノムRNA全体から産生されていた。またTBEVとLGTVのVLPsを比較すると、生ウイルスを用いた場合とは異なり、TBEVのゲノムRNAを持つVLPsからも多量のvsiRNAが産生された。これらの結果は、ウイルスRNA自体だけではなく、TBEVの構造タンパク質またはキャプシドタンパク質がマダニ小分子RNA経路による認識に重要な役割を持つと考えられる。また、複製されたRNAがキャプシドと結合することで宿主小分子RNAによるvsiRNA産生を阻害している可能性が示唆された。 ― 40 ―

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