シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN007799 【演題名】エボラウイルス分泌型糖タンパク質sGPの血管内皮細胞における機能解析 【研究者氏名】古山 若呼 【所属機関】長崎大学高度感染症研究センター エボラウイルス(EBOV)は、ヒトを含む霊長類に対し高い致死率を伴う重篤なエボラウイルス病を引き起こし、現時点で有効な予防法や治療法は限定的である。EBOV表面糖タンパク質(GP)遺伝子からは、3種のタンパク質が産生される。我々はこれまでに、GP遺伝子産物のうち約7割を占める分泌型糖タンパク質sGPが、重症化したEBOV感染動物の血中で高濃度に検出されること、さらに肝臓においてウイルス感染の増強を引き起こすことを報告した。本研究では、この過程におけるsGPの機能を明らかにする目的で肝臓血管内皮細胞に与える影響について解析した。 まず、sGPのウイルス増殖への影響を検討するため、野生型EBOVおよびsGP遺伝子を欠失した組換えウイルス(EBOV-sGP-KO)を感染した初代ヒト肝臓由来血管内皮細胞におけるウイルス増殖を経時的に評価した。その結果、野生型EBOV感染細胞における子孫ウイルス力価はEBOV-sGP-KOと比較して低値を示した。以上の結果から、sGPは肝臓血管内皮細胞においてEBOV増殖を抑制する可能性が示唆された。 次に、このプロセスにおける分子機構を解明する目的で、ウイルス感染から各時間経過後の細胞からRNAを抽出し、抗ウイルス活性を有するI型インターフェロンファミリーIFNA1、血管内皮細胞から産生される代表的な炎症性サイトカインIL-6 、接着因子ICAM-1およびVCAM-1 発現を定量PCR法により解析した。その結果、野生型EBOV感染細胞におけるIFNA1ならびにIL-6の発現はEBOV-sGP-KO感染細胞と比較して増強し、これは感染ウイルス量依存的であった。一方、ICAM-1およびVCAM-1の発現については、ウイルス量依存的に増強したが、両ウイルス間で明確な差は認められなかった。以上の結果より、sGPは肝臓血管内皮細胞において、抗ウイルス応答を促進することでEBOVの増殖を抑制する可能性が示唆された。今後はRNAシークエンス解析などを用いて、ウイルス感染に対する詳細な遺伝子発現を検証することで、このプロセスにおける分子機構の解明を進める予定であり、本研究を進展することで、sGPの機能を標的とした新規エボラウイルス病治療法開発へと進展することが期待される。 なお、本研究における野生型ウイルスを用いた解析は、米国国立衛生研究所・アレルギー感染症研究所・ロッキーマウンテン研究所のアンドレア・マルツィ博士との共同研究として、米国のBSL-4施設にて実施した。 ― 37 ―

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