― 35 ―公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN006677 【演題名】大規模・網羅的なコアゲノム解析による抗酸菌症の難治化病態の解明および迅速診断法の開発 【研究者氏名】福島 清春 【所属機関】大阪大学 感染症においては現在でも培養法による同定・感受性検査が治療方針決定のゴールドスタンダードである。次世代シーケンサーの開発・進歩により、リアルタイムにシーケンスが可能なMinIONが台頭し、病原体の迅速同定が可能となりつつある。我々はナノポアシーケンス手法とコアゲノム解析により培養検体において約10分程度で亜種同定・薬剤耐性変異解析まで可能な手法を確立し、クラウドコンピューティングの手法により離れた医療機関であってもタイムリーに結果を受け取る体制の構築をおこなった(上図)。本手法の有効性を検証する前向き試験を大阪刀根山医療センターにおいて実施し、従来法、質量分析による同定法および薬剤感受性検査と比較し迅速性・網羅性において優位であることを確かめることが出来た(J Clin Microbiol 2023)。本研究においてMycobacterium gordonae属の2つの新種が同定された(Emerg Infect Dis 2025)。マクロライド耐性肺MAC症における経時的な菌側ゲノムの解析により、マクロライド耐性肺MAC症におけるマクロライド耐性は,感染する同一クローン内の菌株の多様性と,感受性クローンによる新規感染により,高度に可塑的であることを見出した(Antimicrob Agents Chemother 2024)。培養を経ず、喀痰検体からの網羅的な菌種同定と薬剤耐性の予測を迅速に行う手法を完成させた。喀痰検体よりDNAを抽出し、全ゲノム増幅、独自に開発した抗酸菌パネルによる抗酸菌特異的なDNA濃縮、シーケンスによる菌同定を行う最適化プロトコールが確立し、1pgの抗酸菌由来DNAから菌種同定が可能であることを確認しNALC-Seqと命名した(Functional & Integrative Genomics 2025 in press)。臨床検体における前向き試験をおこない、非常に良好な成績を得ている。抗酸菌の迅速診断を亜種レベルまで網羅的に判定し薬剤耐性変異の解析もおこなうことで、肺抗酸菌症臨床に変容をもたらす。
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