【【助助成成番番号号】】22002233NN006611 【演題名】喀痰の網羅的解析による肺非結核性抗酸菌症のバイオマーカー探索 【研究者氏名】朝倉 崇徳 【所属機関】慶應義塾大学医学部呼吸器内科 肺非結核性抗酸菌(NTM)症は、結核菌やらい菌を除く抗酸菌によって引き起こされる感染症であり、主に中高年以降の女性や既存の肺疾患を持つ患者において、治癒が困難である慢性進行性の呼吸器感染症を引き起こす。日本における肺NTM症の罹患率は世界的に最も高く、さらに世界各国でも本疾患による死亡者数は増加の一途をたどっている。そのため、社会的にも包括的な対策が急務となっている。 気道の粘液線毛クリアランス(MCC)機構は、粘液、線毛、線毛間液から構成され、それぞれの層には特徴的なムチン(MUC蛋白)が含まれている。MCCは、吸入された粒子や微生物を粘液層で捕らえ、線毛運動により排出することで、気道防御に重要な役割を担っている。特に、MUC5BおよびMUC5ACというムチン蛋白は、MCC機能の維持に不可欠であり、これらの異常が気管支拡張症(NCFB)の発症や進展に深く関与していると考えられる。肺NTM症はこの気管支拡張病変を高頻度で合併し、重症化に関与することから、本研究では気管支拡張病変に着目した。 これまで、NCFBではMUC5Bの増加に伴い、喀痰中のムチン濃度が高くなることが報告されている。過去の研究では、NCFB患者の中枢気道組織においてMUC5ACの発現上昇が確認されていたものの、MUC5Bがどこで産生されているかは明らかにされていなかった。そこで本研究では、肺NTM症を含むNCFB肺におけるMUC5BおよびMUC5ACの産生部位を、RNA-ISH法および免疫染色法を用いて解析した。その結果、NCFB肺の末梢気道の拡張部位では、正常肺や非拡張部位と比較して、MUC5BのRNAおよび蛋白質発現が有意に増加していた。特にMUC5Bは、末梢気道マーカーであるSCGB3A2やSFTPBと共局在しており、正常肺ではこのような共発現は確認されなかった。さらに、喀痰検体を用いて、総ムチン量、分泌型ムチンであるMUC5BおよびMUC5ACの絶対定量を行い、Whole Proteomics解析によって定量的な評価を実施した。健常者と肺NTM症患者を比較した結果、肺NTM症ではムチン濃度が有意に高く、喀痰の性状評価や健常者との識別に有用であることが示された。また、ムチン産生を促進する炎症性サイトカインであるIL-1β濃度もムチン濃度と関連し、さらに肺機能との相関も確認された。加えて、プロテオミクス解析では、ムチン蛋白に加え、好中球関連タンパクや免疫応答関連蛋白、さらには末梢気道特異的マーカーが肺NTM症で有意に増加していることが明らかとなった。 今後は、これらのプロテオミクス解析に加え、軽症例と重症例の比較解析やメタボローム解析を進め、より包括的かつ統合的な解析を実施する予定である。 公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 ― 34 ―
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