公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN005588 【演題名】重症ウイルス性肺炎発症基盤の理解とそれに基づく革新的創薬開発基盤の構築 【研究者氏名】一戸 猛志 【所属機関】東京大学医科学研究所感染症国際研究センターウイルス分野 【目的】我々はこれまでにマウスモデルを用いて38℃以上の体温は腸内細菌依存的にインフルエンザやSARS-CoV-2の重症化を抑制することを明らかにした(Kobayashi et al. PLoS Pathog. 2024)。本研究では、温度そのものがSARS-CoV-2の増殖に与える影響を解析することを目的とした。 【方法】SARS-CoV-2祖先株、デルタ株、BA.5株をVeroE6/TMPRSS2細胞に感染させ、30℃、37℃、39℃で24~48時間培養した。培養上清中のウイルス量をプラークアッセイで、ウイルスRNA量をRT-qPCR法で解析した。またSARS-CoV-2増殖における細胞内カルシウムイオンの役割をin vitroで調べるため、温度感受性受容体TRPV4のアゴニスト(GSK1016790A)やアンタゴニスト(HC-067047)存在下におけるウイルス増殖を解析した。さらにカルシニューリン阻害剤のシクロスポリンAや高血圧薬として使用されているカルシウムチャネル阻害剤マニジピンのSARS-CoV-2増殖抑制効果やハムスターモデルを用いた重症化抑制効果を解析した。 【結果】SARS-CoV-2は37℃でもっとも効率よく増殖することが分かった。そこで37℃で活性化されることが知られている温度感受性陽イオンチャネルであるTRPV4のSARS-CoV-2増殖に与える影響を調べると、TRPV4を介したカルシウム流入が、SARS-CoV-2の効率的な複製に必要であることが分かった。さらに、カルシニューリン阻害剤であるシクロスポリンAおよびFDA承認のカルシウムチャネル遮断薬であるマニジピンはSARS-CoV-2の増殖を抑制し、SARS-CoV-2デルタ株を感染させたハムスターの生存率を有意に改善させた。 【考察】これらの結果は、SARS-CoV-2が37℃で効率的に複製するメカニズムの一端を明らかにしたとともに、マニジピンがSARS-CoV-2の治療薬として再利用できる有力な候補であることを示唆している。 ― 33 ―
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