公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN004477 【演題名】Invadopodia形成を介したSARS-CoV-2の血中移行機構の解析 【研究者氏名】川口 敦史 【所属機関】筑波大学医学医療系 COVID-19の病態の中心はウイルス性肺炎であるが、肺で増殖したSARS-CoV-2が血中へと移行し(ウイルス血症)、他臓器に直接感染する例が報告されている。肺胞上皮と血管を裏打ちする血管内皮は基底膜によって隔てられており、感染後のサイトカインストームに伴う血管透過性の亢進などが基底膜の破壊を引き起こす要因として考えられている。しかしながら、サイトカインストームはウイルス血症を起こさない呼吸器感染症(季節性インフルエンザウイルス等)においても共通の特徴であることから、SARS-CoV-2は独自の戦略を持つことが考えられる。本研究では、SARS-CoV-2が基底膜を通過し肺組織から血中へと侵入する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 SARS-CoV-2デルタ系統をVero細胞に感染し、感染24時間後に蛍光免疫染色法により浸潤突起 (Invadopodia) マーカー及びウイルスタンパク質を検出した。SARS-CoV-2感染により、細胞周縁部から伸長突起様構造が形成されることを見出し、この伸長突起様構造は、F-アクチンに富み、細胞の浸潤能を制御する細胞膜突起であるInvadopodiaであることを明らかにした。ウイルス感染によって誘導されたInvadopodiaには、マトリックスメタロプロテアーゼが局在し、細胞外基質の分解活性を持つこと、また、透過型電子顕微鏡観察により、ウイルス複製場やスパイクタンパク質がInvadopodiaに局在し、ウイルス粒子が形成されていることを明らかにした。さらにマウスモデルを用いて、MMP阻害剤を投与したところ、顕著にSARS-CoV-2の心筋感染を抑制できることを明らかにした。 以上の結果より、ウイルス感染によりInvadopodiaが形成されることで、感染細胞が基底膜を分解して血中に移行する可能性が示唆された。本研究成果は、SARS-CoV-2の多臓器感染を抑制する新たな治療法開発へと繋がる可能性がある。本発表では、Invadopodia形成を制御する分子機構についても議論する。 ― 31 ―
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