― 30 ―公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN003377 【演題名】フラビウイルス感染による核内膜タンパク質の小胞体局在のウイルス学および病理学的意義の解明 【研究者氏名】小林 進太郎 【所属機関】北海道大学大学院獣医学研究院 【研究の背景、目的】 ヒトに脳炎などの重篤な症状を惹起するフラビウイルスの細胞内増殖は小胞体膜の変形と密接に関わるが、その膜変形機構の詳細は不明な点が多い。近年、哺乳動物細胞内のオルガネラは物理的接触を介して分子を交換することが明らかになってきた。小胞体は核外膜と連続した膜から構成されており、核と小胞体は細胞分裂など核膜の変形および消失時、オルガネラ間で膜変形の誘導に関わる核内膜局在タンパク質を交換する。これまでに核内に局在可能なフラビウイルスのカプシド(C)タンパク質が核膜を変形させることを見出しており、本研究では、ウイルス感染によって起こる核膜変形による核内膜タンパク質の細胞内局在への影響ならびに、核内膜タンパク質の局在変化による小胞体膜変形およびフラビウイルスの増殖との関連を明らかにする。 【研究結果】 フラビウイルス科のウエストナイルウイルス (WNV) を感染させたヒト神経芽腫由来のSH-SY5Y細胞では、核内膜に局在し核膜再形成に関わるLEMドメインタンパク質であるEmerinとLamina-associated polypeptide 2 (LAP2) が小胞体に局在していた。またWNVの一回感染性粒子を用いた解析から、これらの核内膜タンパク質はWNVの細胞への侵入過程には影響しないが、ウイルスゲノム複製や粒子形成、細胞外への放出の過程に影響することでウイルスの増殖を促進することが明らかになった。核内膜タンパク質の小胞体局在はリン酸化修飾によって制御されていることから、WNV感染細胞から免疫沈降により濃縮したLAP2に対してリン酸化プロテオミクス解析を実施し、リン酸化されるアミノ酸残基の候補を特定した。今後、リン酸化による核内膜タンパク質の小胞体への局在変化およびウイルス増殖との関連を解析し、フラビウイルス感染による小胞体の膜変形の分子機構の解明に繋げていく予定である。
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