公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN002244 【演題名】抗ウイルス因子からの逃避に着目した、ヘルペスウイルス異種間伝播のリスク評価 【研究者氏名】有井 潤 【所属機関】神戸大学大学院医学研究科 ゲノムを正しく維持し子孫に伝えなくては、生物は存続することが不可能である。DNAシトシン脱アミノ化酵素APOBEC3(A3)は、ウイルスゲノムに変異を導入する抗ウイルス因子として知られている。ヒトがコードする7種のA3は、それぞれ発現パターンや局在が異なり、多様なウイルスに対応している。一方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のVifなどのウイルス因子は、A3を阻害することでA3発現細胞におけるウイルス増殖を可能にしている。A3と「A3阻害ウイルス因子」は、種ごとの違いが大きいことが特徴である。例えばサル免疫不全ウイルスはヒトA3を阻害できず、ヒト細胞において増殖できない。すなわち、A3は、動物からヒトへ伝播する新興感染症を防いでいるといえる。 突発性発疹や脳炎の原因となるヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は、HIV同様にA3が高発現するT細胞に指向性のあるウイルスである。一方、HHV-6BがA3高発現細胞においてどのようにゲノムを維持しているのかは不明であった。本研究では、主にHHV-6BによるA3回避機構および、その特異性に注目して研究を行った。HHV-6Bは、ウイルスタンパク質RNRを介して、6つのA3を細胞質内に蓄積させ、分解することで、A3が高発現するT細胞においてゲノムの維持を達成していた。その阻害方法およびA3に対する指向性は、これまで報告のあるA3阻害法とは異なるものであった。また、同じRoseolovirus属のウイルスあるがコードするホモログ遺伝子にも同様の機能があった。特に、T細胞指向性ヘルペスウイルスによる広いA3阻害能は、動物由来ウイルスによるヒト細胞での安定的な増殖を可能にする可能性がある。 これまで、多くの新興感染症はRNAウイルスによって引き起こされてきた。RNAウイルスの変異率の高さがその理由の一つと考えられるが、DNAウイルスの異種間伝播が、A3によって阻害されていることも一因である可能性がある。本研究において行った、ヘルペスウイルス因子によるA3阻害能の特異性の理解は、異種間伝播のリスクを正確に把握し、防御するために貢献すると考えられる。すなわち本研究は、DNAウイルスによる将来のパンデミック対策に資すると考えられる。 ― 25 ―
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