シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 ― 24 ―【【助助成成番番号号】】22002233NN002222 【演題名】ムンプスウイルスの封入体制御機構およびその破綻がもたらす増殖抑制機構の解明 【研究者氏名】加藤 大志 【所属機関】東京大学 モノネガウイルスには、麻疹ウイルスや狂犬病ウイルス、エボラウイルスなど医学・獣医学的に重要なウイルスが数多く含まれるが、モノネガウイルス感染症に対する有効な治療法は確立されていない。モノネガウイルスの共通増殖機構の一つが感染細胞の細胞質に形成される「封入体(IB)」である。現在、モノネガウイルスのIBは「液-液相分離(LLPS)」によって形成される非膜性のオルガネラであり、ウイルスRNA合成の場と機能すると考えられている。LLPSは、タンパク質や核酸の多価相互作用によって分子が集合し、局所的な高濃度環境を作り出す現象で、遺伝子発現やシグナル伝達など多くの生命現象に関与している。モノネガウイルスもこの機構によってIBを形成し、ウイルスRNA合成を行っていると考えられるが、IBの詳細な形成および制御機構は明らかになっていない。 本研究では、代表的なモノネガウイルスであるムンプスウイルス(MuV)のIBについて、取り込まれる宿主RNAの機能解析を通して、その形成機構を解析した。まず、IBに局在する宿主RNAをPhoto-isolation chemistryを用いて網羅的に同定した。その結果、MuVのIBにはGC含量が高いRNAが多く蓄積することが明らかになった。また、GC含量が高いRNAは様々な高次構造をとることが知られているが、特にグアニン四重鎖(G4)構造を有するRNA(G4-RNA)がMuVのIBに蓄積することが示された。さらに、MuVのIBで検出されたG4-RNA(MRPS34およびBBC3 mRNA)は、MuVのPタンパク質と結合し、LLPSによってPタンパク質が形成する液滴(P droplet)内の分子濃縮を促進することが示された。一方、G4構造を欠損させると、この相互作用が低下し、P droplet内のPタンパク質量も減少した。これらの結果から、G4-RNAはMuVのIB形成における足場として機能し、RNA合成に必要な因子をIBに濃縮させることで、効率の良いウイルスRNA合成に寄与すると考えられた。今後の研究により、IBの詳細な形成・制御機構が解明されれば、新たな抗ウイルス戦略の開発につながると期待される。

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