シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【助成番号】2023N017 【演題名】感染症重症化因子Gas6を高発現するマウス疾患モデルの探索 【研究者氏名】柴田 岳彦 【所属機関】東京医科大学微生物学分野 高齢、喫煙、肥満、糖尿病は呼吸器感染症の重症化リスクを高めることが知られている。しかし、これらのリスク因子に共通する分子・細胞レベルのメカニズムは依然として十分に解明されていない。我々はこれまでに、致死量のウイルス感染に伴い、感染初期に誘導される growth arrest-specific protein 6(Gas6)とその受容体 Axl のシグナルが I 型インターフェロン産生を抑制し、重症化を招くことを見出している。本研究ではこの知見を基盤に、加齢や基礎疾患といった異なるリスク因子が Gas6 レベルを上昇させ、感染症重症化の共通因子として関与するかを検討することを目的とした。 これまでに我々は、健康なマウスを用いた重症インフルエンザモデルでは感染初期に Gas6 が誘導され、結果的に感染症が重症化することを示した。一方、ウイルス感染の有無にかかわらず、Gas6 レベルが高い状態では、その後の感染症が重症化することを予想した。最近、我々は加齢に伴い気道上皮細胞に Gas6 が蓄積し、血中の Gas6 レベルが上昇することを発見した。この状態の老齢マウスに非致死量のインフルエンザウイルスを感染させると、若齢マウスと比較して感染後期にサイトカインストームなどの過度な炎症反応が誘導され、生存率の低下といった重症化が認められた。一方、老齢マウスの感染初期における炎症を含む免疫応答は著しく低下した。そこで、インフルエンザウイルス感染後に老齢マウスに Axl 阻害剤 BGB324 を投与し Gas6/Axl シグナルを遮断したところ、感染初期の免疫応答が回復し、重症化を回避できた。すなわち、加齢に伴う Gas6 レベルの上昇が感染初期の適切な免疫応答を抑制し、結果的に感染症の重症化を引き起こすことが示された。本研究ではさらに、感染症が重症化しやすい基礎疾患モデルにおける Gas6 レベルを調べ、Gas6 が感染症重症化の共通分子であるか検討した。結果、老齢マウスに加え、1 型および 2 型糖尿病モデルマウス、COPD モデルマウスにおいても、血中および気管支肺胞洗浄液中の Gas6 レベルが有意に上昇することを明らかにした。さらに、これらのモデルに対して BGB324 を投与したところ、インフルエンザの重症化が軽減されたことから、これら疾患における Gas6 は感染症重症化の原因であることが示唆された。 以上の結果から、加齢や基礎疾患に伴い Gas6 レベルが上昇し、この Gas6 が感染症重症化の原因となることが示唆された。今後、臨床検体を用いて Gas6 レベルの変動と感染症の重症化との関連を検討し、さらに Gas6 レベルを制御する上流のイベントを解明することで、Gas6/Axl や関連分子を標的とした新規予防・治療薬の開発や、Gas6 を感染症重症化リスクを示すバイオマーカーとして臨床応用が期待される。 ― 22 ―

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