シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233NN001133 【演題名】脂質代謝を基軸とした抗ウイルス記憶T細胞クローンの意義解明 【研究者氏名】遠藤 裕介 【所属機関】かずさDNA研究所 免疫システムの活性化を中心に、ウイルスに対する生体防御応答の一端は解明されているが、昨今のパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスをはじめとして、ウイルス感染症の多くには未だ有効な治療薬が少ない。 こうした背景の下、申請者らは脂質代謝酵素SCD2をT細胞特異的に欠損・薬理阻害することでI型IFN産生の増加および抗ウイルス遺伝子の発現増強など劇的に抗ウイルス免疫応答を上昇させる興味深い知見を見出している。実際に、肺へSCD2阻害薬を吸入させることで、致死性のインフルエンザウイルスやSARS-CoV2に対して非常に強い防御応答を誘導する知見を見出している。SCD2阻害薬の作用は、感染前に阻害薬を投与する予防モデル、感染初期の早期治療モデル、さらには再感染に対して劇的な防御応答を示す興味深い知見を見出している(致死ウイルス量の125倍にも耐えうる強力な作用)。これらの一連の結果は、SCD2阻害薬は単純な抗ウイルス薬として作用するだけでなく、免疫記憶を増強させるワクチンアジュヴァントとしての作用することを意味している。これらの予備知見を元に、本研究ではSCD2-脂質代謝を基盤とした抗ウイルス免疫応答を担う細胞集団・分子ネットワークの解明を目指し、研究を推進した。 我々が発見した脂質代謝調節による抗ウイルス応答の優れている点は、脂質代謝を細胞自律的に低下させることで単純な抗ウイルス作用を示すだけでなく強力な免疫記憶応答を発揮することにある。本研究の達成により、脂質代謝調節による抗ウイルス応答の新たな概念の提唱につながり、免疫学・ウイルス学・代謝生理学と基礎-応用の広範にわたる波及効果が期待される。また、我々が提案する感染症治療に向けたSCD2阻害薬は現状の予備結果からも伺えるように複数種のウイルスに対応可能である。今回の提案によりその作用機序や効果を詳細に検証することで、従来とは異なる汎用性の高い抗ウイルス薬、ユニバーサルワクチン開発の貢献につながると考える。 ― 21 ―

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