公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 ― 14 ―【【助助成成番番号号】】22002233DD000077 【演題名】⽷状菌由来の天然物アスコフラノンを利⽤したエキノコックス症(多包⾍症)の新規治療薬の開発 【研究者氏名】遠海 重裕 【所属機関】帝京大学小児科兼アジア国際感染症制御研究所 エキノコックス症(多包虫症)はEchinococcus multilocularis により引き起こされ本邦にも常在する難治性寄生虫疾患である。1924年に人為的なキツネの持ち込みにより礼文島では、300人の住民がこの疾病で死亡した。現在でも北海道を中心に年間約30名の新規患者を認め、世界でも北半球では100万人の患者が存在し、潜在的には1億人の患者がいるとされている。(以下、多包虫症と呼ぶ)多包虫症は自然環境ではキツネとノネズミにより維持されている。成虫が寄生しているキツネ(終宿主)から排泄された虫卵をヒトが偶発的に摂取し感染が成立する。数年かけて肝臓で幼虫を含む嚢胞を形成する。嚢胞は固形腫瘍のような外見でラミネート膜というムチン型巨大糖鎖を含む硬い層で覆われ、免疫細胞や薬剤の浸透を妨げている。現在、本疾患の化学療法はベンゾジアゾピン系薬剤のアルベンダゾール1択である。しかし、発育抑制的な効果のため完全な殺滅は期待できず、研究自体も飛躍的な進展は見られていない。 我々は多包虫のミトコンドリアを標的とした化合物スクリーニングを行う中で、糸状菌より得られたアスコフラノンとその誘導体がナノモーラーレベルで本寄生虫の呼吸鎖を阻害することを見出した。本寄生虫のミトコンドリアは酸素濃度に応じて生存できるようにフマル酸呼吸(嫌気)と酸素呼吸(好気)の両方を酸素濃度に応じて巧みに使い分けるハイブリッド型の呼吸鎖をもっている。そのため、両呼吸鎖を同時に阻害する化合物が必要であった。その点においてもアスコフラノン誘導体は両代謝経路を阻害できるdual阻害剤であることが見出され、嫌気と好気の両環境で多包虫を殺滅できる化合物であった。 他方で、誘導体や薬効を確認するためには新しい実験系の構築が不可欠であった。蠕虫であるエキノコックスは細菌や原虫と異なり細胞単位でその動態を評価することが困難であった。我々はマウスより摘出した多包虫の嚢胞から細胞を単離し培養を行い薬効評価の実験系構築を試みた。また、これまでの知見を元に有望であると考えられるアスコフラノン誘導体AとBの大量合成を試み、in vivo実験可能な量のこれら化合物を入手することができた。合成された新規化合物はオリジナルと同等の阻害活性を示した。本年度より、肝臓・皮下に病巣を形成させた感染マウスに対して合成した化合物を経口投与及び経皮的注射で投与し薬効を確認したいと考えている。
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