シオノギ感染症研究振興財団_研究成果発表会2025_プログラム・抄録集
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公益財団法人シオノギ感染症研究振興財団 研究成果発表会2025 抄録 【【助助成成番番号号】】22002233FF002200 【演題名】三日熱マラリア原虫の肝内休眠型誘導機構の解明と新規制御法創出を目指した研究開発 【研究者氏名】石野 智子 【所属機関】東京科学大学 三日熱マラリアは、アジアや南アメリカを中心に年間約 700 万人が感染する「顧みられない熱帯病」であり、アフリカで流行する熱帯熱マラリアに比べて対策や研究が大きく遅れている。その要因として、三日熱マラリア原虫は研究室内で培養できないため、抗体や薬剤による感染阻害効果等を試験できないことが挙げられる。蚊によって媒介された三日熱マラリア原虫は、ヒト体内で最初に感染する肝細胞内で一部が休眠し、再発を引き起こす特徴を持つことが、さらに対策を困難にしている。本申請課題では、感染流行地であるタイ王国マヒドン大学の研究者と協力し、三日熱マラリア患者血液を人工的に蚊に吸血させ肝細胞感染型を唾液腺から回収することで研究試料を入手し、肝内休眠型誘導の分子基盤の解明に取り組む。さらに、三日熱マラリア原虫は研究室で維持できないという問題を、ワクチンや薬剤の標的分子のみを三日熱マラリア原虫型にしたネズミマラリア原虫を作出することで克服し、新規三日熱マラリア対策法の創出を目指す。 致死性がより高い熱帯熱マラリア原虫においては、蚊から人への侵入ステージであるスポロゾイトの表面タンパク質 Circumsporozoite protein (CSP) を標的とした「感染阻止ワクチン」が開発されている。そこで、はじめに CSP を標的とした三日熱マラリア感染阻止抗体を探索するために、三日熱マラリア原虫CSPタンパク質 (PvCSP) を発現させたキメラネズミマラリア原虫を作出する。世界で分布する三日熱マラリア原虫には、PvCSP の繰り返し領域が異なる2種類 (VK210 & VK247) が存在することが知られている。そこで、それぞれを発現するキメラマラリア原虫を作出した。VK210については、タイ王国のマラリア患者由来の原虫の配列を用いた。得られたキメラスポロゾイトは、媒介蚊およびマウスに感染すること、PvCSP 特異抗体によって認識されることを確認した。すでに、抗体によるスポロゾイト感染阻害を評価する実験系を3種類確立しているので、まずは既存の抗体がキメラスポロゾイトの感染を抑制するか調べる。ついで、新たなモノクローナル抗体を作成し、2種類の株の両方に阻害効果を示す抗体を選定する。 加えて、蚊による原虫の伝搬を抑制する「伝搬阻止ワクチン」の開発を目指し、雄生殖体表面に発現するPvs230を発現させたキメラネズミマラリア原虫の作出にも成功した。標的タンパク質が雄生殖体表面に発現しているのか、抗体によって伝搬が阻止されるのかを調べ、高い伝搬阻止効果のある抗体の選定へと展開させることを予定している。 また、三日熱マラリア原虫感染患者の血液を吸血させた蚊から回収したスポロゾイトの遺伝子発現解析から、休眠型原虫に関連する分子基盤の解明へと着手している。以上の研究を通じて、材料の得にくさのために開発研究が遅れてきた分野に挑戦し、新規マラリア対策法開発へと繋げていきたいと考えている。 ― 9 ―

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